~「毎年の贈与額は変えるべき?」その答えと、改正された税制の落とし穴~
2013年8月1日に公開した「定期贈与(連年贈与)の注意点について」という記事は、現在も非常に多くの方に閲覧いただいているようです。
ありがとうございます。
ただ、当時と現在では税制が大きく変わっています。特に2024年(令和6年)1月からの改正は、過去の常識を覆す内容です。そこで、元の記事で解説した「贈与の基本」はそのままに、最新のルールに合わせた注意点を加筆・修正してみました。
【そもそも「贈与」が成立しているか?(基本の確認)】
まず、大前提となる「贈与の成立要件」についてです。民法において贈与とは、「あげる人(贈与者)が『あげる』と言い、もらう人(受贈者)が『もらう』と承諾する」ことで成立する契約です。
ここで重要なのは以下の2点です。
❶双方の意思確認
一方的に相手の口座にお金を振り込んだだけでは、贈与とは認められません(名義預金とみなされるリスクがあります)。
❷契約書の重要性
贈与は口頭でも成立しますが、税務調査で「確かに贈与があった」と証明するためには、「贈与契約書」を作成することが最も確実な防衛策です。
よく「あえて110万円を少し超える額の贈与をし、贈与税の申告・納税をしておけば、贈与の証拠になる」という話を耳にしますが、それはあくまで「税金を払った記録」に過ぎません。「もらった認識が本人になかった(通帳もハンコも親が管理していた)」という場合、いくら贈与税を納税していても、贈与そのものが否認されるケースがありますのでご注意ください。
【「毎年同じ金額」だと否認される?(定期贈与の誤解)】
次に、よくある質問である「毎年同じ金額を贈与すると、最初から総額を贈与するつもりだった(定期贈与)とみなされるのでは?」という点です。
例えば、「毎年100万円を10年間贈与した」場合、
A:「年間100万円を贈与するという契約を、たまたま10年間繰り返した」(毎年非課税)
B:「最初から1,000万円あげる約束をして、支払いを10年間の10回分割にした」(定期金として1,000万円に近い金額に対して一括課税)
税務署に「B」だと認定されるのを恐れて、「毎年贈与金額を変えたほうがいい」という俗説があります。しかし、結論から言えば、毎回きちんと「贈与契約書」を作成し、その都度お互いの意思確認が行われているならば、金額を変える必要はありません。税務署が「B(定期金)」だと認定するには、「最初から1,000万円をあげる契約が存在した」という証拠が必要です。毎年新たに契約書を結んでいれば、金額が同じでも、それは「A(連年贈与)」であり、問題視されることはまずありません。
【ここが変わった!「持ち戻し期間」の延長】
上記のように「正しく契約書を作れば、暦年贈与は怖くない」というのが従来の常識でした。 しかし、2024年からの税制改正で、別の大きなリスクが発生しています。それは「生前贈与加算(持ち戻し)期間」の延長です。
従来、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者(被相続人の子など)が、被相続人の相続発生前「3年間」に被相続人から暦年贈与されていた財産は、相続税の課税対象財産に加算されていました。この加算期間が、2024年1月1日以後の贈与分から段階的に延長され、最長「7年間」となりました。つまり、いくら完璧な契約書を作成したうえで毎年110万円以内の贈与をしていても、亡くなる前7年間の贈与分は、贈与者が亡くなった時には相続税の課税対象とされてしまうのです。
【今選ぶべきは「新・相続時精算課税制度」かも?】
「それなら、早めに贈与しないと意味がないのか…」と思われた方、ご安心ください。今回の改正では「ムチ」だけではなく「アメ」も用意されています。それが、新しくなった「相続時精算課税制度」です。
これまで使い勝手が悪いと敬遠されがちだったこの制度に、「年間110万円の基礎控除」が新設されました。この新制度のすごいところは、以下の点です。
・年間110万円以下の贈与財産については、贈与税の申告不要。
・年間110万円以下の贈与財産については、いつ贈与者が亡くなっても相続財産への持ち戻し(加算)がない。
つまり、「持ち戻しリスクにおびえながら従来の暦年贈与(契約書重視)」を続けるよりも、「新制度に切り替えて、確実に財産を移転する」方が有利なケースが増えているのです。
【まとめ】
昔の記事では「契約書さえあれば、毎年同じ金額でも大丈夫」とお伝えしましたが、現在は「契約書はもちろん大事だが、そもそもどの贈与制度(暦年課税か精算課税か)を使うかがもっと大事」という時代になりました。
・今まで通り「暦年贈与」を続けるべきか?
・新しい「相続時精算課税制度」に切り替えるべきか?
これは資産規模や家族構成によって正解が異なります。古い情報のまま対策を進めてしまわないよう、ぜひ一度、最新の税制に基づいたシミュレーションをご依頼ください。

