【相続対策として賃貸物件を建築するメリット】
相続税は、被相続人が亡くなった時に保有していた財産の評価額に応じて課税されます。よって、生前に出来るだけ財産評価額を減らしておけば、相続税額を安くすることが出来ます。
「現金」の相続税法上の評価額は額面金額そのままです。1億円の現金は、評価額も1億円というわけです。一方、「建物」の相続税法上の評価額は、「固定資産税評価額」とイコールになります。この「固定資産税評価額」は、新築時で概ね建築費の60%程度。つまり、手元の現金1億円を丸々使って「建物」を建てると、その瞬間に評価額は約6000万円に減るということです。そしてこの「固定資産税評価額」は、建物が古くなるにつれて更に低くなっていきます。
この建物を「賃貸」にすると、評価額が更に30%減額されます(地域により減額割合は異なる場合あり)。賃貸にすると賃借人に借家権という権利が生じるため、貸す方はその分だけ権利が弱くなるという論理です。「固定資産税評価額」が6000万円だとすれば、4200万円に評価が下がるということです。
以上の通り、手元の現金1億円で賃貸物件を建てると、結果的には評価額を約60%減額出来るわけです。財産評価額が60%減れば、将来負担する相続税も勿論安くなります。
また、「土地」はどうでしょうか?更地などの上に賃貸物件を建てるとその土地は「貸家建付地」となり、更地に比べて評価額が下がります。減額の割合は「借地権割合×借家権割合」で、概ね20%の減額です。相続税評価額1億円の更地が、賃貸マンションを建てることにより約8000万円の評価となるのです。
このような土地・建物の評価の仕組みを利用することが、相続対策として賃貸物件を建築する最大のメリットです。
更に、賃貸物件からは家賃が入ってきますので、相続税の納税資金の準備に充てることが出来ます。その家賃収入を使って生命保険に加入したり、子や孫などに生前贈与すれば、更に強固な相続対策の出来上がりです。
【賃貸物件を建築することで発生するリスクもある】
賃貸物件の建設にはこのように大きな効果が期待できますが、反面リスクもあります。代表的なのは、不動産自体の値下がりリスクと、予定していた賃料が得られないリスク(空室、賃料値下がり)です。賃貸物件を建てるということは、不動産賃貸業を経営するということです。「経営」となると、事前にしっかりしたマーケティングを行わないと危険です。長期的な需給見通しも必要です。相続税の節税になるというだけで飛びついては、失敗する可能性もあります。信頼のおける不動産管理会社への相談が必須となるでしょう。
遺産分けでもめるリスクもあります。相続財産が現金なら簡単に分けることが出来ますが、建物は物理的に分けることが出来ません。かと言って、安易に共有にすれば、将来的に別の問題が生じてきます。共有は時間の経過と共に必ず世代交代を迎えることとなり、共有者が分散し増えていく傾向にあります。一番の問題は共有者間の関係が希薄になることであり、そのうち、顔も見たことがない共有者が出現するケースもあります。何をするにも共有者全員の合意が得られず、賃貸経営が上手くいかなくなったり、売却すらもできなくなります。共有というのは最も平等な分け方であるかのように感じますが、トラブルの元凶と言わざるを得ません。
また、一度建物を建てると簡単に壊すわけにもいきませんし、入居者に立ち退いてもらうのも簡単ではありません。また、売りたい時にうまく売れるという保証もありません。
賃貸物件の建築が相続対策として有効であることは確かです。しかし、リスクについても必ず検討が必要です。?特に、「将来、財産全体をどのように分けるのか?」「上手に分けられるのか?」という点も併せて考えておくことが大切です。
【借金自体には相続対策上の節税効果はない】
なお、 「借金して賃貸物件を建てると相続対策になる」と思い込んでいる方がどうも多いようですが、それは間違いです。そもそも、借金自体には1円も相続税引き下げ効果はありません。賃貸物件を建てることが、土地や建物の評価の仕組み上、節税に繋がるのです。賃貸物件を建てるなら、手持ちの現金で建てても借金して建てても、相続税の節税効果は同じです。